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②ABO血液型検査

    Ⅴ.輸血前検査
     

     不適合輸血を防ぐために,輸血を実施する医療機関で責任を持って以下の検査を行う。これらの検査は原則患者の属する医療機関で実施するが,稀にしか輸血を実施しない医療機関など自施設内で適切に実施できる体制が無い場合,検査センター等に委託して実施する必要がある。

    サンプル

    凝集像の判定
     

    試験管法における全ての凝集強度の判定は,機械法と同様に必ず強さを記録する。

     
    ( 0 ) ・・・・凝集も溶血も見られない,背景は赤く濁る
    (W+)・・・・ごくわずかな微小凝集,背景は赤く濁る
    (1+)・・・・小さな凝集塊,背景は赤く濁る
    (2+)・・・・中程度の凝集塊,背景は赤く濁る
    (3+)・・・・数個の大きな凝集塊,背景は透明
    (4+)・・・・1個の大きな凝集塊,背景は透明
    (mf)・・・・部分凝集,背景は赤く濁る
    ( H ) ・・・・完全な溶血(部分溶血),背景は赤く透明(濁る)
     
    ポイント・・・“抗原減弱” と “部分凝集” の見分け方について説明します。典型的な “抗原減弱” では中小さまざ
    まな大きさの凝集塊が非凝集性の赤血球と混在を認めます。一方,典型的な “部分凝集” では中小の凝集塊は欠落し,比較的大きな凝集塊が非凝集性の赤血球と混在します。しかし, “抗原減弱” の中には “部分凝集” を呈するものがあり,前述した反応態度によって厳密に両者を区別することは困難です。
    また, “部分凝集” には非凝集赤血球と凝集塊が混在しますが,その強さを記入する必要はなく,単にmfとだけ記載します。
     
    ABO血液型
     

     正確なABO血液型の判定は,安全な輸血のためには極めて重要な検査である。ABO血液型判定は赤血球膜上のA,B抗原を検査する「オモテ試験」と,血漿(血清)中の抗A,抗B抗体を検査する「ウラ試験」の結果が一致したときに,初めて血液型を判定することができる。 「オモテ試験」 と 「ウラ試験」 の血液型が一致しないときは判定することはできず,追加試験を実施し,原因を精査する必要がある。

     

    「輸血療法の実施に関する指針」(改訂版) では,以下の様に書かれている。
     ① 同一患者からの異なる時点での2検体で,二重チェックを行う必要がある。
     ② 同一検体について異なる2人の検査者による二重チェックを行い照合するよう努める。

     

    通常,ABO血液型はLandsteinerの法則により表1の様に判定されます。

     
     表1  ABO血液型(Landsteinerの法則)
      オモテ試験

    ウラ試験

    抗A 抗B A1血球 B血球
    A型 0 0
    B型 0 0
    AB型 0 0
    O型 0 0


     しかし,日常の検査ではLandsteinerの法則に合致しないオモテ・ウラ不一致や弱反応,部分凝集などの異常反応に遭遇することがあり,判定に苦慮することがあります。
     異常反応を示す原因や,オモテ・ウラ不一致を示す代表的な例を下記(図1,表2,表3)に紹介します。

     


     図1 試薬・器具由来の異常反応を起こす原因

     

     表2 オモテ試験側の要因

    異常反応

    考えられる要因または病態

    反応が無い
    弱い
    亜型  疾患による一時的な抗原量の低下
    型物質の異常増加による試薬の抗体中和

    部分凝集

    亜型  キメラ・モザイク
    異型造血幹細胞移植後  胎児母体間輸血症候群(FMT)

    異常な凝集

    汎凝集反応  後天性B(acquired B)
    寒冷凝集素による感作


     表3 ウラ試験側の要因

    異常反応

    考えられる要因または病態

    反応が無い
    弱い
    新生児  高齢者  低・無ガンマグロブリン血症
    異型輸血後  異型造血幹細胞移植後

    異常な凝集

    亜型  冷式不規則抗体  寒冷凝集素  連銭形成
    高分子製剤輸注後  試薬に含まれる添加物に反応する抗体

    その他

    新生児の母親由来IgG型抗Aまたは抗B
    免疫グロブリン製剤由来IgG型抗Aまたは抗B
    異型造血幹移植後のPLS(溶血症候群)



    以下に症例を提示しながら,問題点,異常反応に対する考え方,必要な追加検査について紹介します。

    オモテ試験側のオモテ・ウラ不一致の要因

    1)亜型(Bm)による異常反応
    【患者情報】
      23歳女性,甲状腺機能亢進症の疑いで内科を受診した。
    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    0 0 4+ 0

    【問題点】
      オモテ試験O型,ウラ試験B型で,オモテ・ウラ不一致となった。
    【考え方】

     ・オモテ試験が正しいとすると,ウラ試験でのB血球との凝集を認めないため異常となる。しかし,患者は成人であるため,免疫グロブリンの低下や欠損については否定的である。
     ・ウラ試験が正しいとすると,オモテ試験にてB抗原を認めないことが異常であり,亜型を想定し追加検査を実施する。

    【追加検査】
      ➀不規則抗体検査 ➁抗B吸着解離試験 ➂抗Hレクチンとの反応 ➃トランスフーェラゼ活性測定
    【判定】

      不規則抗体陰性,抗B吸着解離試験にてB抗原が証明され,Bトランスフーェラゼ活性を認め,抗Hレクチンとの反応が強く認められたためBm型と判定された。

    【ポイント】

      高齢者(古い過去に検査を実施)の場合,患者がO型と認識している場合があるので,血液型カードを持たせる必要があります。輸血に関してはB型の血液の選択で問題ありません。



    2)亜型(A2)による異常反応
    【患者情報】
      41歳男性,アルコール性肝障害,マロリーワイズ症候群の既往がある。輸血を目的に内科受診された。
    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    4+ 0 +w~1+ 4+

    【問題点】
      ウラ試験で +w~1+ と弱く反応する凝集が見られ,オモテ・ウラ不一致となった。
    【考え方】

      抗Aとの反応が4+,B血球との反応についても4+と強く,A1血球との反応が弱陽性であることから,低温で反応する不規則抗体の存在を第一に考えたいが,A2型で抗A1抗体を保有する可能性についても念頭に置く必要があります。

    【追加検査】
      不規則抗体検査,抗A1レクチンとの反応
    【判定】

      不規則抗体は陰性であったため,A亜型を確認するため抗A1レクチンとの反応を見た結果陰性となり,患者はA2型抗A1抗体を保有していることがわかった。いわゆるA型の中には,A1型は98.5~99.8%,A2型が0.2~1.5%存在します。

    【ポイント】

      通常オモテ試験で用いるモノクローナル抗A血清では,A1型もA2型も4+となり,見分けはできません。
    A2型で過去に輸血(A1型)を受けた場合,免疫によって抗A1抗体を産生することがあります。
    輸血に関しては,A2型で抗A1抗体を保有する場合,37℃で反応するか確認し,反応するならばA型を使用すると溶血反応を引き起こす可能性があるため,O型血を選択する必要があります。



    3)疾患による抗原減弱
    【患者情報】
      65歳男性,急性骨髄性白血病にてフォロー中,全身倦怠感と発熱が持続したため外来を受診した。
    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    2+ 0 0 4+

    【問題点】
      オモテ試験で抗Aの弱反応を認める。
    【考え方】

      ・A抗原が著しく弱いことから亜型を疑う → 抗A被凝集価の測定,レクチンとの反応
    ・疾患による抗原減弱の可能性について確認する。
    ・異型輸血や異型造血幹細胞移植の有無について確認する。

    【追加検査】
      ➀抗A被凝集価の測定 ➁抗A1レクチン,抗Hレクチンとの反応 ➂家族歴,病歴の確認 ➃A転移酵素活性の測定
    【判定】

      本来はA型であるが,急性骨髄性白血病により一時的にA抗原が減弱していたものと判定した。輸血に関しては,A型の血液の選択で問題ありません。



    4)キメラ・モザイクによる異常反応
    【患者情報】
      12歳男性,腹痛を訴え,小児外科を受診した。
    【ABO血液型結果:カラム凝集法】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    3+ mf 3+ mf 0 0

    【問題点】
      オモテ試験において,mf(mixed field :部分凝集)が見られた。
    【考え方】

      mfとは,対応する抗血清に対し,凝集している赤血球と凝集していない赤血球が混在している状態をさします。mf が見られる要因として,異型輸血,異型造血幹細胞移植,キメラ・モザイク,亜型(A3,B3),血液疾患などによる一過性の抗原減弱,新生児の抗原未発達がある。DPC(double cell population)と呼ばれることもあります。

    【追加検査】

      mfはオモテ試験において確認された場合,まず,試薬の期限や手技,コンタミネーションの有無などを考慮し,必要に応じて再採血し,再検査をしてください。同様の結果であれば,患者の疾患名,移植歴,輸血歴等を調べます。A抗原,B抗原の非凝集価,混合血球の分離を行うことで,後天性の有無,キメラ・モザイクの可能性について推察することができます。

    【判定】

      調査の結果,患者は二卵性双生児であることから双生児キメラであることが証明され,キメラによる部分凝集であることがわかりました。カラム法での部分凝集を図2に示します。
     


    図2 部分凝集の一例(カラム法)


    5)多量の型物質による異常反応
    【患者情報】
      43歳女性,卵巣嚢腫の手術目的で産婦人科から依頼があった。
    【ABO血液型結果:カラム凝集法】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    2+ 2+ 0 0

    【問題点】
      オモテ試験での抗A,抗Bの反応が1+と弱く,オモテ試験に異常が見られた。
    【考え方】

      ・オモテ試験の反応が減弱になる原因について考える。亜型や疾患による抗原減弱の可能性は?
      ・患者情報(年齢,性,疾患名,輸血歴)を調べる。
      ・卵巣嚢腫,胃がんの患者で,血漿 (血清) 中の血液型物質が異常に増加している場合に,全血または洗浄不足の赤血球浮遊液を用いてオモテ試験を実施すると,型物質により抗A,抗Bが中和されて,弱陽性または偽陰性になることがあります。

    【追加検査】
      ➀抗A1レクチンとの反応 ➁抗Hレクチンの反応(亜型を否定するため) ➂患者赤血球を十分な生食で洗浄し再検査する。
    【判定】

      血漿 (血清) 中の血液型物質の異常増加によるオモテ試験の減弱であり,AB型と判定された。

    【ポイント】

      生食による洗浄を十分行い,再度検査することで解消できる。

    <ABO血液型抗原の分布>

     臓器,組織
    多い ・・・胃,十二指腸,腎臓,唾液線,食道
    少ない ・・・脳,脂肪組織,ガラス体,水晶体
     体液,分泌液
    多い  ・・・唾液,精液,胃液,卵巣嚢腫液



    6)汎凝集反応による異常反応
    【患者情報】
      57歳男性,重症感染症疑いで緊急入院後依頼された。
    【ABO血液型結果:カラム凝集法】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    4+ 4+ 4+ 4+

    【問題点】
      ABOオモテ試験,Rh試験全ての抗血清に対し強い反応が見られる。
    【考え方】

      全ての抗血清と反応していることから,多量の型物質による影響,汎凝集反応による影響について考える。

    【追加検査】

      温生食にて数回洗浄後,モノクローナル抗体試薬を用いて再検査する。各種レクチン(Arachis hypogaea,Glycine soja,Salvia sclarea,Salvia horminun)との反応をみる。

    【判定】

      各種レクチンとの反応の結果,重症感染症に伴う汎凝集反応であることがわかった。患者体内で微生物の出す酵素が赤血球に作用して,赤血球の潜在抗原(T,Tn,Tkなど)を露出させることにより,ヒト由来や動物由来の抗血清と交差反応を起こす(図3)。成人ヒト血漿中には抗Tが存在するので,交差適合試験の副試験を行った場合に発見されることがあります。患者に壊死性腸炎や重症感染症,特に肺炎球菌感染が疑われる場合には,状況に合わせて,副試験を実施を実施する必要がある。輸血に関しては,血漿製剤の輸血を避ける必要があるため,洗浄赤血球,洗浄血小板を準備する。FFPの輸血は禁忌となります。
     

        図3 汎凝集反応の一例(カラム法)


    ウラ試験側のオモテ・ウラ不一致要因

    1)不規則抗体による異常反応(偽陽性)
    【患者情報】
      5歳男性,鼠頸部のヘルニア手術を行う目的で入院した。
    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    4+ 0 2+ 4+

    【問題点】
      オモテ試験A型,ウラ試験O型で,オモテ・ウラ不一致となった。
    【考え方】

      ・抗A及びB血球との反応が4+と強いため,まず,ウラ試験のA1血球との弱い反応について原因を調べる。

    【追加検査】

      ➀不規則抗体検査(室温で反応する抗体の存在) ➁寒冷凝集素,連銭形成

    【判定】

      不規則抗体検査にて抗M抗体が検出された。ウラ試験に用いたA1血球のM抗原が陽性であったため,反応したことが証明された。 輸血に関しては,37℃で反応しないことが証明されれば,M抗原陰性適合血の選択は必要ありません。



    2)寒冷凝集素・連銭形成による異常反応(偽陽性)
    【患者情報】
      74歳女性,労作時呼吸困難を訴え,内科外来を受診した。
    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    4+ 4+ 4+ 4+

    【問題点】
      オモテ・ウラ試験不一致で,全ての反応に強い凝集を認める。
    【考え方】

      ・全ての血球,血清との反応において強い凝集を認める場合は,まず寒冷凝集素(図4)の存在を疑う。同時に連銭形成(図5)の存在についても念頭に置く必要があります。

    【追加検査】

      ➀37℃温生食による洗浄後のオモテ試験再検査 ➁PEGやZZAPによる吸着処理血球を用いた自己抗体吸着のウラ試験 ➂寒冷凝集素価測定 ➃患者情報(マイコプラズマ肺炎の有無)

    【判定】

      37℃温生食による洗浄によりオモテ試験はB型,ZZAP処理血球による冷式自己抗体の吸着によりB型と判定されたため,最終B型と判定した。輸血に関してはB型の血液の選択で問題ありません。

    【ポイント】

      寒冷凝集素によるウラ試験への影響は,強いものでなければ37℃加温で消失する。強い場合は採血直後から37℃に保つ必要があります。



    3)試薬成分による異常反応(偽陽性)
    【患者情報】
      35歳女性,分娩目的で入院してきた。
    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    4+ 0 2+ 4+

    【問題点】
      ウラ試験のA1血球との反応で弱陽性となり,オモテ・ウラ不一致となった。
    【考え方】

      ・オモテ試験抗Aとの反応とウラ試験B血球との反応が強陽性であるため,亜型は否定的であり,A1血球との反応が何らかの原因(低温で反応する不規則抗体,連銭形成,寒冷凝集素,試薬による非特異反応)によって陽性になっていることが考えられる。

    【追加検査】

      ➀37℃加温による再検査 ➁不規則抗体検査 ➂ウラ試験A1血球の洗浄後再検査

    【判定】

      ウラ試験A1血球の洗浄後陰性となった。寒冷凝集素の存在は否定され,試薬成分による非特異反応と考えた。検査試薬には,反応性の維持,安定性,識別などのため,種々の物質が添加されている。これらの物質(表4)の存在下で,まれに偽陽性・偽陰性反応が生じることがあります。

    【ポイント】

      ウラ試験で見られる偽陽性(多くは弱陽性)に関しては,37℃加温や生食による洗浄にてほとんどは解消されます。


     表4 偽陽性・偽陰性を引き起こす試薬

    赤血球代謝維持

    抗生剤・制菌/抗菌剤

    A色素

    ・グルコース
    ・燐酸塩
    ・クエン酸
    ・ネオマイシン
    ・クロラムフェニコール
    ・ST合剤(TMP/SMP)

    ・トリパンブルー
    ・ブリリアントブルー
    ・パテントブルーバイオレット
    ・アデニン ・パラベン

    抗B色素

    ・イノシン
    ・炭酸水素ナトリウム
    ・マグネシウム
    ・チメラゾール
    ・窒化ソーダ
    ・ハイドロコーチゾン

    ・アクリフラビン
    ・黄色No.5(タートラジン)
    ・黄色No.203

    ・塩化ナトリウム ・ゲンタマイシン その他
    ・EDTA
    ・アルブミン
    ・カプリル酸
    ・PEG



    4)低ガンマグロブリンによる異常反応(偽陰性)
    【患者情報】
      77歳男性,大動脈弁置換の手術の術前検査が提出された。
    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    4+ 0 0 2+

    【問題点】
      ウラ試験でB血球との反応が弱い。
    【考え方】

      オモテ試験の反応が4+で強陽性のため,亜型や疾患による影響は否定的である。本来3+以上認めるはずの抗B抗体が弱い原因(年齢〈新生児,高齢者〉によるγ-グロブリンの低下,低〈無〉γ-グロブリン血症,異型造血幹細胞移植)を考える。

    【追加検査】

      ウラ試験の反応が弱い例は,抗A,抗B抗体価,免疫グロブリンが低いことに起因することが最も考えられるため,以下の追加検査を実施する。➀血漿量を増加(3~4滴)し再検査する。 ➁インキュベーション時間(室温で10~15分)放置後再検査する。 ➂低温インキュベーション(4℃,10~15分)後再検査する。この時,寒冷凝集素と鑑別するためO血球を対照にする。 ➃免疫グロブリン値(IgM)を参照する。

    【判定】

      ウラ試験血漿量増加による再検査,4℃インキュベーションにより凝集が強くなったためA型と判定した。
    患者は77歳であり高齢のため,免疫グロブリンが低下しウラ試験の反応が弱くなったと考えられた。
    免疫グロブリンの低下状態は高齢者だけでなく,新生児,治療に伴う免疫低下状態においても見られる。

    【ポイント】

      日本人のIgM抗A抗体,抗B抗体は,年々低下しており,特にA型・O型のヒトが持っている抗B抗体は抗A抗体と比べて低く見られる。(図6,7参照)




    5)異型造血幹細胞移植による異常反応(偽陰性)
    【患者情報】
      28歳男性,他病院から輸血目的で転院してきた。
    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    4+ 0 0 0

    【問題点】
      オモテ試験A型,ウラ試験O型で,オモテ・ウラ不一致となった。
    【考え方】

      ➀オモテ試験が正しいなら,本来あるべきB血球との反応(抗B抗体)が無い。
    ➁ウラ試験が正しいなら,本来あるべき抗Bとの反応(B抗原)が無い。

    【追加検査】

      ➀抗B抗体が弱くなる原因について考える。(年齢,疾患治療に伴う免疫低下など)
    ➁A抗原が4+と強いのにも関わらず,B抗原が陰性になる原因について考える。亜型,移植など)

    【判定】

      疾患名,聞き取りの結果,患者は元々AB型であり,他院でA型のドナーの異型造血幹細胞移植を受けていたことがわかった。異型造血幹移植患者への輸血については,患者の血球及び血漿と反応しない血液を選択する必要があります(表4)。移植後,ドナーの型に置き換わる間,患者の血液型と混在する期間があります。選択する製剤の血液型に関しては,主治医と相談し決める必要があります。患者型,ドナー型が不明な場合は,赤血球製剤はO型,血漿製剤はAB型を選択することでリスクの低下に繋がります。



    表4 造血幹細胞移植後の輸血製剤の選択

     

    血液型一致 Major missmatch Minor missmatch Major , Minor
    missmatch
    患者とドナー
    血液型の
    組み合わせ
    ドナー:患者
    同型
    ドナー:患者
    (A型:O型)
    (B型:O型)
    (AB型:A型)
    (AB型:B型)
    (AB型:AB型)
    ドナー:患者
    (O型:A型)
    (O型:B型)
    (O型:AB型)
    (A型:AB型)
    (B型:AB型)
    ドナー:患者
    (A型:B型)
    (B型:A型)
    特徴

    通常のABO血液型輸血と同じ

    患者が保有する血漿中の抗体がドナー由来の抗原と反応する。

    ドナーが保有する血漿中の抗体が,患者由来の抗原と反応する。

    患者が保有する血漿中の抗体が,ドナー由来の抗原と反応する。かつドナーが保有する血漿中の抗体が,患者由来の抗原と反応する。

    移植時の造血幹細胞処理の有無と内容
    (血漿を除去)

    (血漿を除去)

    (赤血球・血漿を除去)
    移植後の
    輸血療法

    【赤血球】

    患者とABO式血液型同型の製剤が適応となる

    ドナーがAB型で患者がA,またはB型の場合,患者と同型の赤血球製剤が適応となる

    (無ければO型も可)

    ドナーがAまたはB型で患者がAB型の場合,ドナーと同型の赤血球製剤が適応となる

    (無ければO型も可)

    赤血球にA抗原,B抗原を持たないO型の赤血球製剤が適応となる。

    移植後の
    輸血療法

    【血小板,
    FFP

     

    ドナーがAまたはB型で患者がO型の場合,ドナーと同型の血小板製剤が適応となる

    (無ければAB型も可)

    ドナーがO型で患者がAまたはB型の場合,患者と同型の血小板製剤が適応となる

    (無ければAB型も可)

    抗A抗体と抗B抗体が存在しないAB型の血小板製剤が適応となる。

    備考 将来的には患者の赤血血球型はドナー由来のものに変わる。


    まとめ

     日常のABO血液型判定において,異常反応を呈する代表的な事例を紹介しました。安全な輸血施行に際し,正確なABO血液型の判定は極めて重要な検査であります。ABO血液型検査は従来からある試験管法に加え,カラム凝集法,マイクロプレート法などの原理を用いた自動輸血検査機器が普及し,多様化しています。オモテ試験・ウラ試験において異常反応が見られた時,その可能性についてひとつひとつ確認し判定する必要があります。


     

     

    Ⅴ.輸血前検査
     

    不適合輸血を防ぐために,輸血を実施する医療機関で責任を持って以下の検査を行う。これらの検査は原則患者の属する医療機関で実施するが,稀にしか輸血を実施しない医療機関など自施設内で適切に実施できる体制が無い場合,検査センター等に委託して実施する必要がある。


    サンプル

    凝集像の判定
     
    試験管法における全ての凝集強度の判定は,機械法と同様に必ず強さを記録する。
     

     

    (0)・・・凝集も溶血も見られない、背景は赤く濁る

    (W+)・・・ごくわずかな微小凝集、背景は赤く濁る

    (1+)・・・小さな凝集塊、背景は赤く濁る

    (2+)・・・中程度の凝集塊、背景は赤く濁る

    (3+)・・・数個の大きな凝集塊、背景は透明

    (4+)・・・1個の大きな凝集塊、背景は透明

    (mf)・・・部分凝集、背景は赤く濁る

    (H)・・・完全な溶血(部分溶血)、背景は赤く透明(濁る)

     
    ポイント
     “抗原減弱”と“部分凝集”の見分け方について説明します。典型的な“抗原減弱”では中小さまざまな大きさの凝集塊が非凝集性の赤血球と混在を認めます。
     一方,典型的な“部分凝集”では中小の凝集塊は欠落し,比較的大きな凝集塊が非凝集性の赤血球と混在します。しかし,“抗原減弱”の中には“部分凝集”を呈するものがあり,前述した反応態度によって厳密に両者を区別することは困難です。
     また,“部分凝集”には非凝集赤血球と凝集塊が混在しますが,その強さを記入する必要はなく,単にmfとだけ記載します。
     
    ABO血液型
     
     正確なABO血液型の判定は,安全な輸血のためには極めて重要な検査である。ABO血液型判定は赤血球膜上のA,B抗原を検査する「オモテ試験」と,血漿(血清)中の抗A,抗B抗体を検査する「ウラ試験」の結果が一致したときに,初めて血液型を判定することができる。「オモテ試験」と「ウラ試験」の血液型が一致しないときは判定することはできず,追加試験を実施し,原因を精査する必要がある。
    「輸血療法の実施に関する指針」(改訂版) では,以下の様に書かれている。
     
    ①同一患者からの異なる時点での2検体で,二重チェックを行う必要がある。
    ②同一検体について異なる2人の検査者による二重チェックを行い照合するよう努める。
     
    通常,ABO血液型はLandsteinerの法則により表1の様に判定されます。
     

     表1  ABO血液型(Landsteinerの法則)

     

    オモテ試験

    ウラ試験

    抗A

    抗B

    A1血球

    B血球

    A型

    0

    0

    B型

    0

    0

    AB型

    0

    0

    O型

    0

    0


     しかし,日常の検査ではLandsteinerの法則に合致しないオモテ・ウラ不一致や弱反応,部分凝集などの異常反応に遭遇することがあり,判定に苦慮することがあります。

     

    <異常反応を示す原因や,オモテ・ウラ不一致を示す代表的な例>

    図1 試薬・器具由来の異常反応を起こす原因

     

     表2 オモテ試験側の要因

    異常反応 考えられる要因または病態

    反応が無い
    弱い

    亜型,疾患による一時的な抗原量の低下,型物質の異常増加による試薬の抗体中和

    部分凝集

    亜型,キメラ・モザイク,異型造血幹細胞移植後,胎児母体間輸血症候群(FMT)

    異常な凝集

    汎凝集反応,後天性B(acquired B),寒冷凝集素による感作


     

     表3 ウラ試験側の要因

    異常反応 考えられる要因または病態

    反応が無い
    弱い

    新生児,高齢者,低・無ガンマグロブリン血症,異型輸血後,異型造血幹細胞移植後

    異常な凝集

    亜型,冷式不規則抗体,寒冷凝集素,連銭形成,高分子製剤輸注後,試薬に含まれる添加物に反応する抗体

    その他

    新生児の母親由来IgG型抗Aまたは抗B,免疫グロブリン製剤由来IgG型抗Aまたは抗B,異型造血幹移植後のPLS(溶血症候群)



    以下に症例を提示しながら,問題点,異常反応に対する考え方,必要な追加検査について紹介します。

    オモテ試験側のオモテ・ウラ不一致の要因

    1)亜型(Bm)による異常反応
    【患者情報】

     23歳女性,甲状腺機能亢進症の疑いで内科を受診した。

    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    0 0 4+ 0

    【問題点】

     オモテ試験O型,ウラ試験B型で,オモテ・ウラ不一致となった。

    【考え方】

    ・オモテ試験が正しいとすると,ウラ試験でのB血球との凝集を認めないため異常となる。しかし,患者は成人であるため,免疫グロブリンの低下や欠損については否定的である。
    ・ウラ試験が正しいとすると,オモテ試験にてB抗原を認めないことが異常であり,亜型を想定し追加検査を実施する。

    【追加検査】

     ➀不規則抗体検査 ➁抗B吸着解離試験 ➂抗Hレクチンとの反応 ➃トランスフーェラゼ活性測定

    【判定】

     不規則抗体陰性,抗B吸着解離試験にてB抗原が証明され,Bトランスフーェラゼ活性を認め,抗Hレクチンとの反応が強く認められたためBm型と判定された。

    【ポイント】

     高齢者(古い過去に検査を実施)の場合,患者がO型と認識している場合があるので,血液型カードを持たせる必要があります。輸血に関してはB型の血液の選択で問題ありません。



    2)亜型(A2)による異常反応
    【患者情報】

     41歳男性,アルコール性肝障害,マロリーワイズ症候群の既往がある。輸血を目的に内科受診された。

    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    4+ 0 +w~1+ 4+

    【問題点】

     ウラ試験で +w~1+ と弱く反応する凝集が見られ,オモテ・ウラ不一致となった。

    【考え方】

     抗Aとの反応が4+,B血球との反応についても4+と強く,A1血球との反応が弱陽性であることから,低温で反応する不規則抗体の存在を第一に考えたいが,A2型で抗A1抗体を保有する可能性についても念頭に置く必要があります。

    【追加検査】

     不規則抗体検査,抗A1レクチンとの反応

    【判定】

     不規則抗体は陰性であったため,A亜型を確認するため抗A1レクチンとの反応を見た結果陰性となり,患者はA2型抗A1抗体を保有していることがわかった。いわゆるA型の中には,A1型は98.5~99.8%,A2型が0.2~1.5%存在します。

    【ポイント】

     通常オモテ試験で用いるモノクローナル抗A血清では,A1型もA2型も4+となり,見分けはできません。
    A2型で過去に輸血(A1型)を受けた場合,免疫によって抗A1抗体を産生することがあります。
    輸血に関しては,A2型で抗A1抗体を保有する場合,37℃で反応するか確認し,反応するならばA型を使用すると溶血反応を引き起こす可能性があるため,O型血を選択する必要があります。



    3)疾患による抗原減弱
    【患者情報】

     65歳男性,急性骨髄性白血病にてフォロー中,全身倦怠感と発熱が持続したため外来を受診した。

    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    2+ 0 0 4+

    【問題点】

     オモテ試験で抗Aの弱反応を認める。

    【考え方】

    ・A抗原が著しく弱いことから亜型を疑う
    →抗A被凝集価の測定,レクチンとの反応
    ・疾患による抗原減弱の可能性について確認する。
    ・異型輸血や異型造血幹細胞移植の有無について確認する。

    【追加検査】

     ➀抗A被凝集価の測定➁抗A1レクチン,抗Hレクチンとの反応➂家族歴,病歴の確認➃A転移酵素活性の測定

    【判定】

     本来はA型であるが,急性骨髄性白血病により一時的にA抗原が減弱していたものと判定した。輸血に関しては,A型の血液の選択で問題ありません。



    4)キメラ・モザイクによる異常反応
    【患者情報】

     12歳男性,腹痛を訴え,小児外科を受診した。

    【ABO血液型結果:カラム凝集法】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    3+ mf 3+ mf 0 0

    【問題点】

     オモテ試験において,mf(mixed field :部分凝集)が見られた。

    【考え方】

     mfとは,対応する抗血清に対し,凝集している赤血球と凝集していない赤血球が混在している状態をさします。mf が見られる要因として,異型輸血,異型造血幹細胞移植,キメラ・モザイク,亜型(A3,B3),血液疾患などによる一過性の抗原減弱,新生児の抗原未発達がある。DPC(double cell population)と呼ばれることもあります。

    【追加検査】

     mfはオモテ試験において確認された場合,まず,試薬の期限や手技,コンタミネーションの有無などを考慮し,必要に応じて再採血し,再検査をしてください。同様の結果であれば,患者の疾患名,移植歴,輸血歴等を調べます。A抗原,B抗原の非凝集価,混合血球の分離を行うことで,後天性の有無,キメラ・モザイクの可能性について推察することができます。

    【判定】

     調査の結果,患者は二卵性双生児であることから双生児キメラであることが証明され,キメラによる部分凝集であることがわかりました。カラム法での部分凝集を図2に示します。
     

     図2 部分凝集の一例(カラム法)


    5)多量の型物質による異常反応
    【患者情報】

     43歳女性,卵巣嚢腫の手術目的で産婦人科から依頼があった。

    【ABO血液型結果:カラム凝集法】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    2+ 2+ 0 0

    【問題点】

     オモテ試験での抗A,抗Bの反応が1+と弱く,オモテ試験に異常が見られた。

    【考え方】

    ・オモテ試験の反応が減弱になる原因について考える。亜型や疾患による抗原減弱の可能性は?
    ・患者情報(年齢,性,疾患名,輸血歴)を調べる。
    ・卵巣嚢腫,胃がんの患者で,血漿 (血清) 中の血液型物質が異常に増加している場合に,全血または洗浄不足の赤血球浮遊液を用いてオモテ試験を実施すると,型物質により抗A,抗Bが中和されて,弱陽性または偽陰性になることがあります。

    【追加検査】

     ➀抗A1レクチンとの反応 ➁抗Hレクチンの反応(亜型を否定するため) ➂患者赤血球を十分な生食で洗浄し再検査する。

    【判定】

     血漿 (血清) 中の血液型物質の異常増加によるオモテ試験の減弱であり,AB型と判定された。

    【ポイント】

     生食による洗浄を十分行い,再度検査することで解消できる。

    <ABO血液型抗原の分布>

    臓器,組織

    多い・・・胃,十二指腸,腎臓,唾液線,食道
    少ない・・・脳,脂肪組織,ガラス体,水晶体
    体液,分泌液

    多い・・・唾液,精液,胃液,卵巣嚢腫液



    6)汎凝集反応による異常反応
    【患者情報】

     57歳男性,重症感染症疑いで緊急入院後依頼された。

    【ABO血液型結果:カラム凝集法】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    4+ 4+ 4+ 4+

    【問題点】

     ABOオモテ試験,Rh試験全ての抗血清に対し強い反応が見られる。

    【考え方】

     全ての抗血清と反応していることから,多量の型物質による影響,汎凝集反応による影響について考える。

    【追加検査】

     温生食にて数回洗浄後,モノクローナル抗体試薬を用いて再検査する。各種レクチン(Arachis hypogaea,Glycine soja,Salvia sclarea,Salvia horminun)との反応をみる。

    【判定】

     各種レクチンとの反応の結果,重症感染症に伴う汎凝集反応であることがわかった。患者体内で微生物の出す酵素が赤血球に作用して,赤血球の潜在抗原(T,Tn,Tkなど)を露出させることにより,ヒト由来や動物由来の抗血清と交差反応を起こす(図3)。成人ヒト血漿中には抗Tが存在するので,交差適合試験の副試験を行った場合に発見されることがあります。患者に壊死性腸炎や重症感染症,特に肺炎球菌感染が疑われる場合には,状況に合わせて,副試験を実施を実施する必要がある。輸血に関しては,血漿製剤の輸血を避ける必要があるため,洗浄赤血球,洗浄血小板を準備する。FFPの輸血は禁忌となります。

     図3 汎凝集反応の一例(カラム法)


    ウラ試験側のオモテ・ウラ不一致要因

    1)不規則抗体による異常反応
    【患者情報】

     5歳男性,鼠頸部のヘルニア手術を行う目的で入院した。

    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    4+ 0 2+ 4+

    【問題点】

     オモテ試験A型,ウラ試験O型で,オモテ・ウラ不一致となった。

    【考え方】

    ・抗A及びB血球との反応が4+と強いため,まず,ウラ試験のA1血球との弱い反応について原因を調べる。

    【追加検査】

     ➀不規則抗体検査(室温で反応する抗体の存在)➁寒冷凝集素,連銭形成

    【判定】(偽陽性)

     不規則抗体検査にて抗M抗体が検出された。ウラ試験に用いたA1血球のM抗原が陽性であったため,反応したことが証明された。輸血に関しては,37℃で反応しないことが証明されれば,M抗原陰性適合血の選択は必要ありません。



    2)寒冷凝集素・連銭形成による異常反応
    【患者情報】

     74歳女性,労作時呼吸困難を訴え,内科外来を受診した。

    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    4+ 4+ 4+ 4+

    【問題点】

     オモテ・ウラ試験不一致で,全ての反応に強い凝集を認める。

    【考え方】

    ・全ての血球,血清との反応において強い凝集を認める場合は,まず寒冷凝集素(図4)の存在を疑う。同時に連銭形成(図5)の存在についても念頭に置く必要があります。

    【追加検査】

     ➀37℃温生食による洗浄後のオモテ試験再検査➁PEGやZZAPによる吸着処理血球を用いた自己抗体吸着のウラ試験➂寒冷凝集素価測定➃患者情報(マイコプラズマ肺炎の有無)

    【判定】(偽陽性)

     37℃温生食による洗浄によりオモテ試験はB型,ZZAP処理血球による冷式自己抗体の吸着によりB型と判定されたため,最終B型と判定した。輸血に関してはB型の血液の選択で問題ありません。

    【ポイント】

     寒冷凝集素によるウラ試験への影響は,強いものでなければ37℃加温で消失する。強い場合は採血直後から37℃に保つ必要があります。



    3)試薬成分による異常反応
    【患者情報】

     35歳女性,分娩目的で入院してきた。

    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    4+ 0 2+ 4+

    【問題点】

     ウラ試験のA1血球との反応で弱陽性となり,オモテ・ウラ不一致となった。

    【考え方】

     オモテ試験抗Aとの反応とウラ試験B血球との反応が強陽性であるため,亜型は否定的であり,A1血球との反応が何らかの原因(低温で反応する不規則抗体,連銭形成,寒冷凝集素,試薬による非特異反応)によって陽性になっていることが考えられる。

    【追加検査】

    ➀37℃加温による再検査➁不規則抗体検査➂ウラ試験A1血球の洗浄後再検査

    【判定】(偽陽性)

     ウラ試験A1血球の洗浄後陰性となった。寒冷凝集素の存在は否定され,試薬成分による非特異反応と考えた。検査試薬には,反応性の維持,安定性,識別などのため,種々の物質が添加されている。これらの物質(表4)の存在下で,まれに偽陽性・偽陰性反応が生じることがあります。

    【ポイント】

     ウラ試験で見られる偽陽性(多くは弱陽性)に関しては,37℃加温や生食による洗浄にてほとんどは解消されます。


     表4 偽陽性・偽陰性を引き起こす試薬

    赤血球
    代謝維持

    抗生剤・制菌/抗菌剤

    抗A色素

    ・グルコース
    ・燐酸塩
    ・クエン酸

    ・ネオマイシン
    ・クロラムフェニコール
    ・ST合剤(TMP/SMP)

    ・トリパンブルー
    ・ブリリアントブルー
    ・パテントブルーバイオレット

    ・アデニン

    ・パラベン

    抗B色素

    ・イノシン
    ・炭酸水素Na
    ・マグネシウム

    ・チメラゾール
    ・窒化ソーダ
    ・ハイドロコーチゾン

    ・アクリフラビン
    ・黄色No.5(タートラジン)
    ・黄色No.203

    ・塩化ナトリウム

    ・ゲンタマイシン

    その他

    ・EDTA
    ・アルブミン
    ・カプリル酸
    ・PEG



    4)低ɤグロブリンによる異常反応
    【患者情報】

     77歳男性,大動脈弁置換の手術の術前検査が提出された。

    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    4+ 0 0 2+

    【問題点】

     ウラ試験でB血球との反応が弱い。

    【考え方】

     オモテ試験の反応が4+で強陽性のため,亜型や疾患による影響は否定的である。本来3+以上認めるはずの抗B抗体が弱い原因(年齢〈新生児,高齢者〉によるγ-グロブリンの低下,低〈無〉γ-グロブリン血症,異型造血幹細胞移植)を考える。

    【追加検査】

     ウラ試験の反応が弱い例は,抗A,抗B抗体価,免疫グロブリンが低いことに起因することが最も考えられるため,以下の追加検査を実施する。➀血漿量を増加(3~4滴)し再検査する。➁インキュベーション時間(室温で10~15分)放置後再検査する。➂低温インキュベーション(4℃,10~15分)後再検査する。この時,寒冷凝集素と鑑別するためO血球を対照にする。➃免疫グロブリン値(IgM)を参照する。

    【判定】(偽陰性)

     ウラ試験血漿量増加による再検査,4℃インキュベーションにより凝集が強くなったためA型と判定した。
    患者は77歳であり高齢のため,免疫グロブリンが低下しウラ試験の反応が弱くなったと考えられた。
    免疫グロブリンの低下状態は高齢者だけでなく,新生児,治療に伴う免疫低下状態においても見られる。

    【ポイント】

     日本人のIgM抗A抗体,抗B抗体は,年々低下しており,特にA型・O型のヒトが持っている抗B抗体は抗A抗体と比べて低く見られる。(図6,7参照)




    5)異型造血幹細胞移植による異常反応
    【患者情報】

     28歳男性,他病院から輸血目的で転院してきた。

    【ABO血液型結果】

    オモテ試験 ウラ試験
    抗A 抗B A1血球 B血球
    4+ 0 0 0

    【問題点】

     オモテ試験A型,ウラ試験O型で,オモテ・ウラ不一致となった。

    【考え方】

    ➀オモテ試験が正しいなら,本来あるべきB血球との反応(抗B抗体)が無い。
    ➁ウラ試験が正しいなら,本来あるべき抗Bとの反応(B抗原)が無い。

    【追加検査】

    ➀抗B抗体が弱くなる原因について考える。(年齢,疾患治療に伴う免疫低下など)

    ➁A抗原が4+と強いのにも関わらず,B抗原が陰性になる原因について考える。亜型,移植など)

    【判定】(偽陰性)

     疾患名,聞き取りの結果,患者は元々AB型であり,他院でA型のドナーの異型造血幹細胞移植を受けていたことがわかった。異型造血幹移植患者への輸血については,患者の血球及び血漿と反応しない血液を選択する必要があります(表4)。移植後,ドナーの型に置き換わる間,患者の血液型と混在する期間があります。選択する製剤の血液型に関しては,主治医と相談し決める必要があります。患者型,ドナー型が不明な場合は,赤血球製剤はO型,血漿製剤はAB型を選択することでリスクの低下に繋がります。



    表4 造血幹細胞移植後の輸血製剤の選択

    血液型一致

    Major
    missmatch

    Minor
    missmatch

    Major,
    Minor
    missmatch

    患者とドナー血液型の組み合わせ

    ドナー:患者
    同型

    ドナー:患者
    (A型:O型)
    (B型:O型)
    (AB型:A型)
    (AB型:B型)
    (AB型:AB型)

    ドナー:患者
    (O型:A型)
    (O型:B型)
    (O型:AB型)
    (A型:AB型)
    (B型:AB型)

    ドナー:患者
    (A型:B型)
    (B型:A型)

    特徴

    通常のABO血液型輸血と同じ

    患者が保有する血漿中の抗体がドナー由来の抗原と反応する。

    ドナーが保有する血漿中の抗体が,患者由来の抗原と反応する。

    患者が保有する血漿中の抗体が,ドナー由来の抗原と反応する。かつドナーが保有する血漿中の抗体が,患者由来の抗原と反応する。

    移植時の造血幹細胞処理の有無と内容


    (血漿を除去)


    (血漿を除去)


    (赤血球/
    血漿を除去)

    移植後の
    輸血療法
    【赤血球】

    患者とABO式血液型同型の製剤が適応となる

    ドナーがAB型で患者がA,またはB型の場合,患者と同型の赤血球製剤が適応となる
    (無ければO型も可)

    ドナーがAまたはB型で患者がAB型の場合,ドナーと同型の赤血球製剤が適応となる
    (無ければO型も可)

    赤血球にA抗原,B抗原を持たないO型の赤血球製剤が適応となる。

    移植後の
    輸血療法

    【血小板,
    FFP】

    ドナーがAまたはB型で患者がO型の場合,ドナーと同型の血小板製剤が適応となる
    (無ければAB型も可)

    ドナーがO型で患者がAまたはB型の場合,患者と同型の血小板製剤が適応となる
    (無ければAB型も可)

    抗A抗体と抗B抗体が存在しないAB型の血小板製剤が適応となる。

    備考

    将来的には患者の赤血血球型はドナー由来のものに変わる。


    まとめ

     日常のABO血液型判定において,異常反応を呈する代表的な事例を紹介しました。安全な輸血施行に際し,正確なABO血液型の判定は極めて重要な検査であります。ABO血液型検査は従来からある試験管法に加え,カラム凝集法,マイクロプレート法などの原理を用いた自動輸血検査機器が普及し,多様化しています。オモテ試験・ウラ試験において異常反応が見られた時,その可能性についてひとつひとつ確認し判定する必要があります。


     


 
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